介護保険制度の改正(2018年度版)のポイント

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そもそも介護保険制度とは?
介護保険制度は、要介護者とその家族を社会全体で支えていくことを目指し、2000年に施行されました。従前の制度と違い、高齢者の自立を支援することを理念とし、多種多様な介護サービスの中から、利用者本位で選択できます。また給付と負担が明確な社会保険方式が採用されているのが特徴です。
そして、より実情に合った制度にするため、3年ごとの見直しがなされています。2018年も、その見直しの年に該当します。ここでは、2018年度に行われた介護保険制度の改正について、詳しく説明していきます。
2018年度制度改正のポイント
介護保険制度改正の経緯
2000年に施行された介護保険制度は、これまでも、2005年、2011年、2014年、2017年と3年ごとに内容が見直されています。そして、改められた制度は、その翌年に施行されています
2005年度の改正では、介護予防が重視されました。地域密着型のサービスの創設が大きな変更点といえます。
2011年度の改正では、医療と介護の連携の強化を目指しました。その取り組みの一環として、複合型サービスの創設が重視され、大きな注目を浴びました。
2014年度の改正では、
・予防給付の地域支援事業への移行
・特別養護老人ホームの入居に関しての条件を、それまでの要介護1以上から要介護3以上に引き上げる
など、いくつか大きな変更が行われました。
2018年度制度改正の目的
2018年度の制度改正の背景には、「2025年問題」というものがあります。「2025年問題」というは、1947~49年に生まれた、いわゆる「団塊の世代」全員が75歳以上となる2025年頃に発生すると考えられている様々な問題です。これまで以上に、日本の人口に対する高齢者の割合が増えて、医療費や介護費の負担がさらに増大し、高齢者を支え切れなくなるのではないかと考えられています。そこで、「2025年問題」に備えるという意図のもとで、制度の改正がすすめられました。
そして、2018年度の介護保険制度改正では、「2025年問題」へ対処するべく、次の4つの考え方を基本に改正を実行しました。
①地域包括ケアシステムの推進
②自立支援・重度化防止に向けた質の高い介護サービスの推進
③新たな介護人材の確保を目指した生産性の向上
④介護サービスを適正化し、介護保険制度の持続可能性と安定性を確保する
こうした考えを基本に、様々な制度改正や介護施設の創設が行われました。
2018年度の改正によって、より質が高く、効率的な介護サービスの提供をすることが可能になります。
ここからは、改正内容について具体的に解説していきます。
①地域包括ケアシステムの推進
2018年度の介護保険改正の軸の1つが、「地域包括ケアシステム」という概念です。
地域包括ケアシステムでは、それぞれの地域に住んでいる高齢者が、住み慣れた地域で自分らしい生活を最後まで送ることができるようするための支援を重視します。
そのために、高齢者が住む地域全体で、介護をはじめ医療や介護予防、住まい、生活支援などの日常の生活を支えるサービスを、包括的に提供するための仕組みが、地域包括ケアシステムです。
なお、ここにおける地域とは、高齢者に必要なサービスを30分以内に提供することができる範囲のことをいいます。
今回の制度改正では、必要な介護の度合いに関わらず、どこに住んでいても適切な医療、介護サービスが受けることができる体制の整備を目的としています。
具体的には、
・医療と介護の複合的ニーズに対応できる施設の創設
・ケアマネージャーと医療機関や介護と医療の連携を推進し質を向上させる
などの形で実現に向けて動いています。
②自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現
介護保険の理念や目的を踏まえ、安心・安全で、自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現を目的として様々な改正が実行されました。
具体的には、
・リハビリテーションに関する医師の関与の強化
・要介護・要支援状態の維持や改善率を評価する「アウトカム評価」のリハビリテーションにおいての拡充
・通所介護においた心身機能の維持に関するアウトカム評価の導入
・身体的拘束等の適正化の推進
などが進められました。
③多様な人材の確保と生産性の向上
現在、介護現場における人材不足が深刻化しています。
介護の現場で活躍する若い現役世代の絶対数が不足し、老人が老人を介護するといった事態も通例化しています。
このままの状態が続くと、近い将来には、介護サービスを受けたくても受けることができない介護難民が発生するとも言われています。
2018年度の介護保険制度改正では、こうした人材不足に関する問題を解決するために、
・人材の有効活用・機能分化
・ロボット技術等を用いた負担軽減
・各種基準の緩和等を通じた効率化の推進
を目的として、様々な改正がなされました。
具体的な施策としては次のようなものがあります。
まず、提供するサービスにおける専門性を明確にしつつ、介護業界外からの人材を確保することで生活援助の担い手の幅を広げることを図ります。
それ以外にも、目覚ましいスピードで成長する科学技術の活用も注目されています。
介護ロボットを活用することで、これまで人間が負担してきた様々な負担を軽減することが期待できます。
また、ICTを利用することで、従来よりも効率的な介護が可能になります。
リハビリテーション会議への参加や域密着型サービスの運営推進会議等の開催方法・開催頻度を見直し、より効率的なものへと変えることができれば、介護を担う人材の負担が軽減されます。
介護従事者にまつわる問題の解決には、担い手の数を充実させるというアプローチ以外にも、担い手の負担を減らし、効率化を図ることで、より機能的に人材を活用するというアプローチも存在します。
④介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保
現在、一部の悪質な業者による、不要なサービスの提供や不当な金額でのサービス提供などが問題となっています。
こうした現状を是正するための施策も、2018年度の改正には盛り込まれています。
介護サービスをより適正な形で提供するための、具体的な施策は次のようなものがあります。
第一に、福祉用具をレンタルする際の、貸し出し価格の上限を定めました。事業者ごとにレンタルに必要な金額が異なっていては、利用する人が負担するお金も、不均等になります。こうした事態を改善するために、価格に上限を定めました。これによって、介護に必要不可欠な車椅子や介護ベッドを、適切な値段で使うことができるようになります。
次に、訪問介護の見直しを、主に報酬という観点から見直しました。要介護者の日常生活を支援するサービスの介護報酬が引き下げられ、在宅の高齢者が、食事や掃除といった暮らしのサポートを受けやすくなります。
その他にも、通所介護や通所リハビリの基本報酬の見直しなども行われました。
介護保険制度の今後
現在の日本の介護現場は、様々な問題を抱えています。
・介護保険制度を維持するために必要な財源の不足
・止まらない少子高齢化
・働く現役世代の負担の増加
・介護に携わる人たちの低報酬
などなど、数えるときりがありません。
とくに、今後は、「団塊の世代」が介護を必要とする年代に突入する「2025年問題」も待ち構えています。なんと、2025年には国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になるとも言われています。
介護保険制度は、こうした状況に対処すべく見直しが続けられる制度です。
今後の制度のあり方は、厚生労働省が注力する「地域包括ケアシステム」の実現を重視したかじ取りが行われることでしょう。
まとめ
2000年が始まって以来、介護保険の制度は、3年ごとの改正が続けられています。
刻々と変化する社会情勢や、より深刻さをます介護現場の実情に備え、より良い制度が必要不可欠だからです。
とくに2018年度には、「地域包括ケアシステム」という考え方をベースに、様々な改正が行われました。
そして、今後も、高齢者の介護を社会全体で支えるにふさわしい制度を作り上げるためにも、介護保険の見直しは継続されます。
私たちは、こうした制度の見直しや改正に注目する必要があるといえるでしょう。